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グレイテスト・ショーマン ― ミュージカルとしての「快感」に振り切ったエンターテイメント映画

※映画の感想なので,ネタバレが含まれるかもしれません。まあネタバレして困るようなストーリーではないので,べつに気にしない方はどうぞ。

 

 

巷で話題になっているミュージカル映画,「グレイテスト・ショーマン」を観てきました。いい映画だった。


映画『グレイテスト・ショーマン』予告D

 

 

ぜんぜん本数を観てないのでアレなんですが,ミュージカル映画ってストーリーを深く掘り下げて楽しむものというよりは,結構お決まりのストーリーがあった上で,それに合った音楽と踊りを楽しむ映画,というものだと思ってます。定型的な役があって,先が予想できるストーリーがないと,安心して歌に集中できないから。

そういう意味でこの映画は,その「ミュージカルとしての快感」を感じる上ではとてもよい映画だったと思いました。観てスカッとする感じ。

 

なんでこんなにストーリーのことに触れて感想を述べているかというと,この映画はアメリカでは「観客からは賞賛されているが,批評家の評価が真っ二つに割れている映画」だというのをウィキで見たから。

グレイテスト・ショーマン - Wikipedia

 

確かに観たあとに思い返してストーリーを点検してみると,わりとガバガバというか,わかった上で切り捨ててんじゃないかみたいなところが散見されるのです。

・サーカスという「フリークスを集めて見世物にしたショー」という,人権的観点からみて結構重いテーマを持ってきているのに,フリークス側の心理描写はそんなにクローズアップされずさらっと流されるか,めっちゃポジティブに描かれる(挿入歌の「This is Me」が最たる例)

・というかフリークスがバーナムに優しすぎる(蔑まれても反乱しないし面と向かって文句も言わない。アニーのパートで人種差別的な苦悩は描写されるが,割とさらっと流される)

・サクセスストーリーとして描くので結果的にご都合主義的な展開になり,差別的なテーマを扱った映画としてみると物語が薄っぺらい

 

マイノリティ的な目線で見ると,ストーリーの掘り下げとしては全然足りないのですが,つまりはそこら辺の掘り下げに重点を置いてないってことで。ミュージカル映画としてはみんな幸せ!成功!やったね!くらいの気持ちで観られるものならいいんじゃないかな,という気持ちです。

 

逆に心理描写の細やかさや苦悩を描くところに重点を置いたのが昨年の「ラ・ラ・ランド」だと思うのですが(2作とも同じチームが音楽を担当),そこは「ラ・ラ・ランド」の方が優秀でした。ラストの曲でストーリー回想が入るところとかめっちゃ泣いた。苦悩の描き方がうまかった。

 

こういう映画を観ていてストーリーの掘り下げ方とか,ご都合主義が気になるのはまあそうだと思う。ギレルモ・デル・トロがまさに同タイミングでそれをテーマにした映画を作っているくらいだし。

ギレルモ・デル・トロ「テレビの中の怪獣だけが友達だった」 | 文春オンライン

 

賞を獲る作品として評価するのであれば,上記のようなテーマ設定とか掘り下げ方にこだわった作品が上位にくるのだと思うのだけれど,結構自分でもマイノリティの面倒な面を体験してるのに,映画でもそういうの観続けたり求め続けるの辛くないですかね,というのが正直な自分の気持ち。だったらせめて物語くらいはエンターテイメントとして昇華して,単純に希望が持てるものを観たいなあ,という。

 

ここらへんの心情整理が難しい。たまにそういうのがテーマド真ん中にある作品も見るのだけれど(邦画でいうと「告白」とか「怒り」とか),自分はテーマが重すぎて感情移入しすぎてしまって,観た後しばらく具合が悪くなる。映画の質がダメってことじゃなくて,自分の人生の処理で一杯一杯なのに映画でもそういう苦悩を体験するとかなんでそんな辛いことをしなきゃいけないんだ,みたいな気持ち。まだ小説だったら自分のペースで咀嚼できるからマシなんだけど(クッツェーの「恥辱」とか読んでる時はほんと地獄かと思ったけど),映像化されるとインパクトが強すぎて軽くノイローゼになる。

 

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

 

ブッカー賞受賞作。個人的にはクソみたいに胸糞悪い話なので耐久力に自信がある方はどうぞ。高名な賞を獲る作品ってのはこんな感じだと個人的に思ってる例。

 

自分はそんなに耐久力の高い人間じゃない。ので,せめてそういうテーマでもエンターテイメントとして仕立て上げてあるものが好きなのだなあ,と。だって,辛くても笑って乗り越えていきたいでしょう?

だから今回の「グレイテスト・ショーマン」は,自分にとってはとても良い作品でした。

 

 

※映画内の曲,どれも好きなんだけど,一番好きなのはザック・エフロンゼンデイヤが歌う「Rewrite the Stars」でした。というかザック・エフロンが完璧な色男に成長していて軽く惚れた。

 


Rewrite The Stars (from The Greatest Showman Soundtrack) [Official Audio]

 

どんな状況でも星は描き直せる,と思って生きていきたい。ずっと。