いつかヒトになるためのレッスン

人生いったりきたり。

「常識」が誤っている可能性を考慮に入れること

今日はちょっと,真面目な話を。
 
 
Google傘下のベンチャーが開発した囲碁プログラム「AlphaGo」が,「世界最強の棋士」と呼ばれる韓国の棋士に打ち勝ったらしい。しかも5番勝負の最初の3戦を全勝して。要するに,コンピュータが人間に完全なるストレート勝ちをしたわけだ。
 
知的なゲームとされるチェス,バックギャモン,将棋といったゲームでも同様に対戦プログラムは進化を遂げていて,それぞれ人間の棋士に勝利をあげている。ただし囲碁だけは,ハンデなしで人間に勝利をあげることができていない「聖域」であった。
それを,今回コンピュータが崩した。
 
コンピュータが優れている要素のひとつは,その演算能力だろう。
将棋やチェス,囲碁といった知的ゲームにおいては,「どの手を打つと自分が有利になるか」を計算し,打つ手を決める。手を打つ領域が限られているそれらのゲームでは,その中でどれだけの場面展開を予想できるか,つまりどれだけの展開がありえるかを読めるか,が勝敗を分ける要素になってくる。
一桁×一桁の盤面上で勝負が展開される将棋やチェスと異なり,19×19の盤面上で勝負が行われる囲碁は,そもそも考えられる場面展開の数が膨大だった。そのため,プログラムの開発者は苦悩していたようだ。
 
人工知能をテーマとしたWIREDのこの号でも,囲碁プログラムの話題が記事になっている。ここでは,Crazy StoneやZENといった別の囲碁プログラムが4子のハンデでプロ棋士に勝利したことを挙げている。
 
ここで注意しておきたいのは,こういったプログラムをつくっている開発者たちは,人間の知能に勝つ,ということを目的にしているわけでは決してない,ということだ。彼らはただ,他のプログラムを開発する時と同じように,プログラミング上の課題や限界を乗り越えるために,プログラムを進化させているにすぎない。
 
プログラムはあくまでプログラムで,知能ではない。AlphaGoは人間と対戦して勝ったときに「勝って嬉しい」などとは感じないからだ。それはあくまで囲碁というゲームの上で対戦するときに,何が最善の手であるかを計算するものである。
 
今回の対局の際,AlphaGoが打つ手には,囲碁でのセオリーからは想像ができない手が含まれていたらしい。外側から手を進めていくのが定石であるのに対し,AlphaGoは中央に手を打つことがあり,解説者を困惑させたのがその例だ。それでも,AlphaGoはそれらの手を「妙手」に変え,勝利した。
 
要するに,今まで人間が考えてきた手の外に,本来はもっと多くの戦術があるのにもかかわらず,人間はそれを理解できなかった。ということになる。そしてそれをコンピュータがやってのけた,ともいえる。
 
AlphaGoは,過去の棋譜を片っ端から記憶し,さらに自身の中で何千万局と戦い合わせて増幅させた打ち手の中から最適手を引き当ててくるプログラムだ。その中には人間同士の棋譜の他に,AI同士で対戦してきた際に打たれた手も含まれる。だから,人間とは比べ物にならないスピードで,あらゆる方向から練習を積んだ結果,5000年の歴史の蓄積を超えた戦術を持っている,ということだ。その意味では,AlphaGoは遥かなる未来から来た棋士であるといえる。
 
AlphaGoが今までの囲碁のセオリーを打ち崩したのと同じように,自分たちが住んでいる世界で「常識」とされていることだって,数百年先の世界からみたら何をバカなことをやっているのだろう,という扱いを受けているかもしれない。
自分たちが世界の知の進化と同じレベルでまでものごとを考える必要はないけれど,「常識」と呼ばれるものがほんとうはそうではないのかもしれない,ということをコンピュータが証明してくれたおかげで,ぼくたちマイノリティと呼ばれるいきものは,もっと生きることに息苦しさを感じなくて済むようになるかもしれない。
「常識的に考えて,それはありえない」ということを口走る輩が少しでも減ることを,ただ願うのみだ。